目次
はじめに
こんにちは。私は岩手県内で野生鳥獣による被害の防止業務に携わっている30代の行政職員です。
近年、イノシシやシカ、サル、クマなどによる農作物被害が深刻化し、多くの農家の皆さんが頭を悩ませています。
今回は、そうした被害を軽減するための有効な手段である「電気柵」について、メリットや導入のポイントを、実際の事例を交えながらお伝えします。
電気柵は野生鳥獣被害を大幅に減らせる、効果的な防除対策です
野生動物による農作物の被害を防ぐ手段はいくつかありますが、その中でも「電気柵」は、比較的安価で、設置も容易、即効性も高いという大きなメリットがあります。
正しく設置すれば、ほとんどの野生鳥獣を寄せつけない効果が期待でき、農作物の被害を大幅に減らすことが可能です。
電気柵が効果的な理由
1. 野生動物は「痛み」を学習する
電気柵は、動物が触れると一瞬だけ弱い電流が流れる仕組みになっています。
この電気ショックにより、野生動物は「ここに近づくと痛い」「危険な場所だ」と学習し、それ以降は近づかなくなります。
これは動物の条件反射を利用した非常に効果的な方法です。
2. 幅広い動物に対応可能
イノシシ、シカ、サル、アナグマ、クマなど、地域によって異なる動物に対応できます。
電気柵は設置の高さや線の本数を調整することで、さまざまな動物に合わせたカスタマイズが可能です。
- クマ(20cm間隔で3段構成)
- イノシシ(20cm間隔で2段構成)
- シカ、その他中型動物(電気柵と物理柵の複合柵)
3. 定期的な点検で長期間使える
電気柵は、太陽光パネルやバッテリーで作動するため、電源の確保が難しい農地でも設置できます。
定期的な点検とメンテナンスを行えば、数年間は効果を維持することが可能です。

岩手県内での導入事例と成果
【事例①】紫波町のリンゴ園での成功例
紫波町のあるリンゴ農家では、イノシシやクマによる被害に悩まされていました。
果樹の幹がかじられたり、地面が掘り返されるなど、収穫前に深刻な損害が発生していました。
令和4年度に電気柵を導入し、3段構成・地上20cm、50cm、80cmの高さにワイヤーを設置。さらに、草刈りを徹底し、電流が地面に逃げないように管理したところ、導入初年度から出没が激減。
※一般的にクマ避けの場合、20cm間隔で3段の構成にします。
翌年には、被害がゼロになり、農家の方も「本当に安心して作業できるようになった」と喜ばれていました。
【事例②】一関市・水田地域での対応
水田での被害が多かった一関市では、集落ぐるみで電気柵を一帯に設置する対策を行いました。
田植え直後から収穫期までしっかり電圧を管理し、動物の侵入を防止。
その結果、サルやシカによる食害が激減し、地区全体での農業被害額が前年比80%減となりました。
正しい設置と維持管理が成功のカギ
電気柵は「設置すれば終わり」ではありません。効果を最大限に引き出すには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
電気柵を効果的に使うためのポイント
- 電圧は常に5,000V以上を維持する(バッテリー切れや断線に注意)
- 草刈りを徹底し、漏電を防ぐ
- 獣道を把握して柵を設置する場所を選ぶ
- 設置後も週に1回は点検を行う
- 動物が柵に慣れる前に高圧でしっかり「教育」する
これらの管理を怠ると、電気柵があっても動物が突破してしまい、「効かない」と感じてしまうことがあります。
「設置」と「維持管理」はセットで考えることが大切です。
導入支援制度も活用できます
岩手県や市町村では、電気柵の設置に対して補助金制度を設けている場合があります。
費用の負担を軽減できるので、農家の皆さんはぜひご相談ください。
補助対象例(市町村により異なる)
- 電気柵本体(電源装置・コード・支柱など)
- 設置作業費用
- 修繕や交換部品の費用 など
詳しくはお住まいの自治体窓口までお問い合わせください。
まとめ:野生鳥獣対策は「守る」から「寄せつけない」へ
野生動物は年々賢くなり、環境にも順応しています。
そのため、受け身の「守る」対策から、積極的な「寄せつけない」対策へと、考え方を変える必要があります。
電気柵はその中でも、最前線の防御手段です。
正しく使えば、私たちの大切な農作物を守り、安心して農業を続けるための力強い味方になります。
今後も、地域と連携しながら被害ゼロを目指していきましょう。
おわりに:まずは一歩、はじめてみませんか?
もし「難しそう」「効果があるのか不安」と感じている方がいれば、まずは一度相談してみることをおすすめします。
私たち行政も、現地調査やアドバイスを通じてサポートしています。
野生鳥獣対策は、一人で抱え込む必要はありません。
地域全体で協力しながら、持続可能な農業と安全な暮らしを実現していきましょう。
※電気柵設置にあたっては、通行人や子どもへの安全対策、適切な表示板の設置もお忘れなく。
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